契約書は婚姻届
第17話 ごっこ遊び
……暇だ。

読んだ本を閉じるとベッドの上で朋香はあくびをした。
空調の利いた広い部屋、ここから一歩も出られないとそれは暇だろう。


一週間ほど前、二ヶ月半に及んだ尚一郎のフランス出張を終えようやく日本に帰国したとたん、朋香は熱を出してしまった。
なんとなく嫌な予感はしていたのだ、朝、起きたときから少しのどが痛かったから。
尚一郎を心配させたくないのもあって気のせいだと片づけた。

帰りの飛行機は渡仏したときは違い、一般のジャンボジェットのファーストクラスだった。

社用ジェットとはいえ、尚一郎は使わせてもらえないらしい。
もっとも、日本に駐機してある機体をわざわざフランスに飛ばして帰国するのも面倒だというのもある。

ファーストクラスはプライベート空間が確立されている分、尚一郎から遠く、不満を感じた。
けれどそんなことを感じている自分に随分、尚一郎に慣らされているなとおかしくなる。


しばらくは快適に過ごしていたが、次第に身体がだるくなってくる。
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