ハニートラップにご用心
TRAP3 不協和音な心

「親睦会?」

「そう!営業事務の女の子達みんなで親睦会やらないかって。なんだかんだ新入社員の歓迎会ができてなかったから、今更だけど……」


新商品の売り上げは好調らしく追加発注がそこそこ入って来てはいるものの、販売業界が所謂閑散期であるには違いない。世の中は現在夏のボーナスが底を尽き、冬に向けての貯蓄をしている頃だからだ。

営業はどれだけ回ってもほとんど成果を出せないし、それに伴い事務もやることが減ってくる。

この時期はどれだけゆっくり仕事をしても時間が余ってしまうので、私はデスク周りの整理整頓をしていた。


「えっと、それはいつですか?」


私と同じく営業事務の女性、五つ上の先輩を見上げると、彼女は少しだけ気まずそうに目を泳がせた。


「それが、今日なんだけど……」

「今日!?」


私は社会経験がここしかない。
一般的に親睦会とはこんなに急にやるものなんだろうか。

そんなことよりも、帰りが遅くなるようなことがあるのであれば土田さんに迷惑がかかる。
私の自宅で私だけが暮らす家なら何をしても誰にも迷惑をかけないが、今の私の帰るべき家は土田さんの家だ。家主に許可を取らなければ、頷くことはできない。


「別にいいわよ?」


どうか首を横に振ってくれないかと祈りながら土田さんに報告したところ、彼はあっさりと許可を出した。


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