悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
私のために特別な計らいをしてもらうより、彼の好みに私が合わせたい。そう思っているからだ。


並んで座る長椅子の前には、濃い茶色の木目をしたマホガニーのテーブルがあり、その上には冷めてしまった紅茶のカップがふたつと、食べ終えた焼き菓子のプレートがのせられている。

暖炉で薪が弾ける音がして、暖められた室内には私たち、ふたりだけ。

私が見つめる先では、「まだ硬いな」と彼が苦笑いして不合格を告げていた。

なにが硬いのかというと、私の笑顔で、お茶の時間を利用して笑顔を作る練習をしているのだ。


感情を表に出すのが苦手な私は、愛想のない娘だと陰口を叩かれたり、ともすれば不機嫌なのかと取られることもある。

半月ほど前の雨の夜、馬車内で敵を作らない方法を教えてあげると言ったレオン様は、『こちらに敵意がないことを相手に示すためにも笑顔は大切だよ』と私に練習させているのだ。


笑えと言われたら、私にも笑顔を作ることはできる。

しかし彼に言わせると、不自然な笑顔は逆効果で、相手を警戒させてしまうものらしい。

自然な笑顔を要求する彼は、お手本を見せつつ優しく指導してくれるけれど、なかなか合格点を与えてくれない。

「こうでしょうか?」と思いっきり口角をつり上げ、目を細めたら、レオン様が吹き出した。

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