イジワル外科医の熱愛ロマンス
元フィアンセ現る
月一で行われる医局秘書連絡会に出席した私は、会議を終えて医局に戻る途中の廊下で、ふと足を止めた。
大きな窓の向こうが白んで見えるのが、なんとなく気になったせいだ。


いつも連絡会の会場になる大会議室は、医学部棟最上階の管理フロアの片隅にある。
最上階の窓からだと、医学部棟からはちょっと遠い、理学部棟の中庭辺りまで眺めることができる。
私のオフィスである医局は二階だから、それと比べてだいぶ目線が高くなる為だ。


理学部棟の中庭には、この東都大学のキャンパスで唯一、桜の木が植えられている。
三月下旬。
東京の開花宣言も当に出されている今、まだ満開には早いけれど、綺麗に咲き誇っている桜がチラッと見えた。


西日の落ちた午後五時。
東京の空は群青に染まり始めている。
薄紅色の桜が、理学部棟から漏れる照明に照らされ、ちょっと幻想的で美しい。
白んで見えたのは、光を受けた花びらが煙っているように思えたからだ。


私は連絡会資料を胸に抱きしめ、まるで導かれるかのように、ゆっくりと窓辺に足を運んだ。


毎年この時期、桜が咲いているのを見ると、私はいつも、自分の名前の由来を思い出す。
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