イジワル外科医の熱愛ロマンス
一見だけでは、表情も人相もわからない。
それでも、スラッとした長身に、ちょっと上がり気味の男らしいキリッとした眉から、それが祐だと認識できる。


「オペは人工心肺装置を使用し、心臓を停止させて行います。低体温下で上行大動脈の血流を遮断し、人工心肺装置に繋いでからが勝負。心停止時間が長くなると、心筋にダメージを与え、術後後遺症のリスクも高まる。心停止をいかに短時間で抑えるか。ここが、術者の腕が問われるところです」


木山先生の説明が学生向けの講義のように丁寧だから、医療従事者ではない私にも眼下でどんなオペをしているか、とてもよくわかる。


研修医から「一般的に、本オペにおける心停止時間はどのくらいなのですか?」と質問が挙がり、木山先生はそれにも丁寧に答えている。


彼らを横目に、私は再びオペ室の術者二人に視線を落とした。
それとほぼ同時に、スピーカーを通して、オペ室内の会話が聞こえてくる。


『体温、三十二度まで低下しました』

『よし。宝生君。心停止段階に入るぞ』


麻酔科医の報告を聞いた園田教授が、ルーペの先をわずかに上げて祐に告げた。
まさに人工心肺への切り替えが行われるようだ。
研修医たちが一斉に祐を注視するから、私までゴクッと喉を鳴らしてしまう。
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