木山先生の突然の『恋人宣言』の真相は、私と先生当人しか知らない。
木山先生は、『サポートする』という言葉を、有言実行してくれたまでのこと。
彼自身が言った通り、『上司としては出張を止めることはできない』けど、祐に対して防御線を張ってくれたのだ。


上司である木山先生から、『僕の彼女に手を出すな』的な忠告を受けた形の祐は、目を剥きはしたものの、すぐに冷静さを取り戻し、「そうですか」とだけ返事をした。
黙って木山先生に会釈しただけで、私の横を擦り抜け、大きな歩幅で医局から出て行ってしまった。
木山先生の『恋人宣言』を本当に信じたか、その淡々とした声と表情からではわからなかった。


「信じてくれた……かな。反応が静かで、効果がわからないな」


私と同じように祐の心中を測りかねているのか、木山先生も曖昧に首を傾げた。
私も同意を示して、何度か頷いてみせた、けれど。


「せ、先生っ! 本当に申し訳ありません! 私の為にあんな嘘を……!」


ハッと我に返って、すぐに木山先生に謝罪をした。
ペコペコと頭を下げる私の横で、美奈ちゃんが「え?」と裏返った声を出すのが聞こえた。


「え? 嘘? 木山先生と雫さんが付き合い始めた、ってのがですか?」


ポカンとした顔で呆けていた美奈ちゃんが、いつの間にか私たちの方に歩いてきていた。
私と木山先生を交互に見遣る彼女に、先生が「はは」と苦笑する。