イジワル外科医の熱愛ロマンス
正直なところ、それだけでも大きな一歩で、本当を言うと私は満足していた。
いや、しようとしていた、と言うべきかもしれない。


あんなに強引で傲慢に私に『復讐』を仕掛けてきた祐が、別人のように私に触れない。
デート中、なんとなく手を繋ぐだけ。
考えてみれば、幼稚園の頃はそうやって、普通に手を繋いで一緒に登園したものだ。


初恋から、やり直そうとしていた。
それなら、私が祐に今の変化しつつある気持ちを伝えれば、もう既にそこがゴールだ。


そうじゃない。
それじゃあなにかが違う。
そんな気持ちで迎えたGW明け――。


私の胸には、木山先生と美奈ちゃんが言ってくれた言葉が、深く刻み込まれていた。


祐をもう一度好きになった後、私が始めるのは綺麗でキラキラの初恋じゃない。
どうしようもなく好きになる、心に抗えない恋。大人の恋。


同じことを力任せに祐から宣言された時、私は間違いなく怯えて怖がった。
だけど……。


『そんな風に好きになれるって、幸せです』


自分でも戸惑うほど揺れ動く心の中で、美奈ちゃんの言葉がポッと光を放って浮かび上がった。
そう言った時美奈ちゃんが見せた、『恋する女の幸せな顔』を思い出し、私の胸が淡く疼く。


先に二十九歳になった祐と、一から始めようとして向かい合うのは、二十八歳の私。


『怖がらないで』


その言葉が、私の背をトンと押してくれた。
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