たった一度のモテ期なら。
1章 お別れしても元気でいます。

遅れてきた西山を騒がしく囲んで、イングリッシュパブの中央、背の高い丸テーブルの上でビールグラスがガチャガチャとぶつかった。

「働き者がやっと来たな!」

「お疲れ、営業一課の希望の星!」


6人掛けのこの席は、仲がいい同期が適当に集まるのに便利な定位置。

早く来た人はスツールに座って飲み始め、全員揃った場合は今の西山みたいな立ち飲みが2人出る。狭苦しく身を寄せ合いつつ、目線が合って全員で話しやすい席なのだ。

入社してからもうすぐ3年。「最近の若者はすぐ辞める」という風潮にも関わらず、私たちの代は誰も辞めず仲の良い8人のまま過ごしている。



「腹減ったー。今日昼飯食えなかった」

ぐいっと男っぽくネクタイを緩めながら西山はフィッシュフライをつまんだ。

「お前それしょっちゅう言ってるけど、ほんとなの?」

「ほんとほんと。うちの課長鬼だし。でも残業するよりマシだからいいんだって」

言いながらパイントグラスをもう空けそうな勢いの西山を、向かいの席から止めてみる。

「ねえ、じゃあ食べてからにしなよ。無茶だよそんな飲み方」

「これ空けたら食うから。まず飲ませろ」

「酔っぱらっちゃうでしょ!」

「平気だって。でもいつもありがとな、おかあちゃん」

言い募る私をあしらって結局飲み干す。いろいろ取り分けて置いたお皿を差し出すと、さんきゅ、とこれは素直に受け取った。



全員揃う同期飲みは実は結構久しぶりで、はしゃぎたい気持ちはわかるけどね。

西山はお酒に強くはないんだから、営業の席じゃないときぐらい少し控えるべきだと私は思う。

君のおかあちゃんではないけれど。

ああ、その呼び方への文句を言い忘れた。

話題はもう、西山の営業案件に移っていて今更怒るのもおかしいし、まあいいか。
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