たった一度のモテ期なら。
2章 モテ期だなんて言われても。
意味もなく軽く寝坊して、会社に着くのがギリギリの時間になっている。今朝は急ぎの用事はないけれど、遅刻は遅刻だ。

世の中には定時出社でない人だって多いはずで、道行く人は悠々と歩いているように見える。

駅からの流れで整然と歩く人々の中で走るのもかっこ悪いから、できる限りの速足で歩いていく。

うーん、でもギリギリだ。

人が少なくなってきたら走ろう。



人の流れがばらけてきた頃、横を脚の長いサラリーマンに追い越された。負けるもんかと小走りになりかけてから、西山だと気づいた。

無言で猛スピードで横に追いつくと、くすくすと笑いながら歩幅の違いを見せつけてくる。

「走れよ、ちびっこ」

「そんなに小さくないから」

「そうか、脚だけ短いのか。かわいそうにな」

言い返そうとして、パンプスの先が何かにひっかかって前につんのめった。

わぁっという間抜けな声に反応して西山が素早く腕を出してくれたから、一応転ばないで踏みとどまれた。

でも、サブバックが吹っ飛んで中身が歩道に飛び出してる!

きゃー、ダメダメ、その書類は見ないで!

慌ててしゃがんで拾おうとするが、一足先に西山が大きなパンフレットを拾い上げた。

ひったくるように取り返すと、たぶんその勢いに目を丸くされた。でも西山はなにも言わずそのまま他のものを拾うのも手伝ってくれる。

「見た?」

「……いや、見てないよ」

「誰にも言わないで」

立ち止まったままサブバックを胸に抱えて、ネットで資料請求してみたら思いのほか本気の資料が届いちゃっただけで、という言い訳を小声でした。

脚本家養成スクールのパンフレット。

『絶対かなえるプロデビュー!』というコピーが堂々と書いてある。

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