全て美味しく頂きます。
7 Friday ーオムライスー
 金曜日は、約束の最後の日。

 定時に仕事を終えた私は,二人分の夕食の材料を買い,祥善寺を迎える準備を整えていた。

 ”腕を振るう”とは言ったものの,特にお料理上手でもない私,レシピは限られている。
 今日は,数少ない得意料理のオムライスにするつもり。


 日中,得意先に出かけていた彼がうちのベルを鳴らしたのは,8時ごろだった。

「オジャマシマス」

 こないだまであんなにリラックスしていたくせに,今夜の彼はいやにギクシャクと畏まった様子だ。
 右手と右足が一緒に出て,ひどく歩きにくそうな姿に,私は思わず吹き出してしまった。


 チョコン。

 カジュアルコタツに入りもせずに,正座している彼を置いて,私はキッチンの前に立った。

 タマゴをフワフワに焼いて包む作業をしている間,彼はテレビもつけず、クッションの上で正座のバランスを保つのに苦労している。

 やだ。
 彼の顔,めっちゃひきつってる。

 クスクス笑いながら,私は出来上がった料理をトレイに載せた。

 ケチャップをかけて仕上げを終え,それをわざわざ探して買ってきたクロッシュ(ホテルとかで料理を冷めないようにする、銀のまあるいフタね)で隠した。
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