雨

On your side

終電を諦め時計の呪縛から放れて暫く、より一層酒がすすんだ。だいぶ酔ってしまったが、もとより強い方である為、まだしばらく飲めるだろう。

「こんなに楽しい酒は久々だなあ」

彼もまた目を細めて気持ちよさそうに笑っていた。

「お姫さんとはなんだか気が合うなぁ、あんた本当にいいよ」

などと言いながら笑う。そんな彼と私の前に突然、一杯ずつ水が差し出された。

顔を上げるとマスターが申し訳なさそうに頭を下げ言った。

「ここはもう終わりなんです。この通りの中心へ行けばまだ空いてる店もありますから、ご移動いただけますか？」

どうやら閉店時間を過ぎ30分も経っていた。

「申し訳ない。もう出るよ。お会計出してくれる？」

それぞれの会計が出たのだが、私の分までさらりと彼が払ってしまった。かなりの値段だったのではないだろうか。

「あなたより早くきて飲んでたんですし、私自分で払いますから。」

どうにか貰おうとしても、領収書を渡そうとしない彼はにやりと笑って言った。

「下心代ですから」

なによそれ、領主書に伸ばしていた手も緩んでしまった。初めて聞いた下心代という言葉は、私が気を使わないための彼の冗談だろう。素直に好意に甘えることにした。