君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「兄さん、銀の薔薇なんて身に着けてるんだ。

ああいうのがさらっと似合う男なんて、世の中で兄さんくらいだな」


隣で嬉しそうに話す澪音を見上げる。澪音とゆっくり話ができるのは久しぶりだから、パーティーの緊張感はあるもののはしゃぐ気持ちは抑えられない。


最近の澪音は多忙を極めていて、一緒に居られる時間は殆ど無い。出張も多いから、夜はあの大きなベッドでひとりで眠ってばかり。


「多分澪音の方がずっと似合うと思いますよ。

あの銀の薔薇って、何か意味でもあるんですか?」


「『ばらの騎士』っていうドイツオペラでさ、

婚約の時に銀の薔薇を送る風習が描かれているんだ。

それで銀の薔薇を届ける使者が、オクタヴィアンっていう美少年なんだけど……」


「美少年!!

弥太郎さん、32歳にして自分を美少年役に見立ててるんですか?

なんて似合わないことを!

普段は仏頂面だし、全然キャラじゃないですよ?」


笑いを堪えながら言うと、澪音に焦ったように止められる。


「静かに……!

かぐやだって同い年なんだから、聞かれたら後で恐ろしい目に合うぞ」


「この距離ですよ。聞こえるはずが……」


「音楽やってる人間は耳が良いんだ。

ましてや、かぐやの音大時代の専攻は指揮科。フル編成のオーケストラで、全部の楽器の音を聞き分ける能力があるんだよ、恐ろしいことに」


澪音はかぐやさんに関して「恐ろしい」という言葉を重ねる。この前の夜が余程怖かったらしい。
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