君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
「ても実際、オクタヴィアンなら兄さんに打ってつけだ。銀の薔薇を届けるただの使者だったはずが、本来の婚約者を差し置いて自分が結婚する役なんだから」


澪音の言う本来の婚約者とは、澪音自身のことだ。実際は、弥太郎さんは澪音を差し置いて婚約したのではなく、澪音が二人を結びつけたわけだけど……。


感慨深く二人を眺める澪音の目は優しく、今日の日を心から喜んでいるように見える。


「あとで薔薇の献呈シーンの曲を二人のために演奏するか。本物は女声二重唱だけど、適当にアレンジすればなんとかなる」


「女性二人で歌うんですか? オクタヴィアンは女の人?」


「役の上では男だけど、演じるのは、ズボン役と言って颯爽とした感じの女性だよ。

もし柚葉がオペラをやるなら、オクタヴィアン役はきっとよく似合う」


「そりゃまあ、私は図体が大きくて男みたいですけどね……」


「何言ってんだか。 一度見たらわかるよ。

オクタヴィアンは、ストイックに隠された色気というか……男女問わず虜にする演者しかできないんだ。」


澪音の心地よい声に吸い寄せられるように、『ばらの騎士』について説明してくれる内容に集中していると、ふいに首にかけられた冷たい指先の感触にぞくっとした。


「柚葉さん、お久しぶり。

私もあなたくらいの歳の頃は……、30代は遥か彼方の他人事のように思っていましたわ」


三日月のような瞳で笑うこの人は、紛れもなくかぐや姫だ。今までの儚げな印象はどこへやら、表現しようのない迫力に満ちている。


まさか澪音の言う通り、さっき言ってたことが本当に聞こえているなんて。冷や汗が出るのを感じつつ、年齢の話題を避けて挨拶をする。


「お……お久しぶりです。

本日はおめでとうございます」
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