君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
Stage.6 セルゲイ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番
午前中から講義の連続で、ランチの頃にはぐったりするほど頭が重くなっていた。もともと、体を動かす方が好きで勉強は苦手な方なので、講義と聞くだけで憂鬱になるのだ。


でも、勉強のおかげで樫月家が何をやっているのかやっとわかった。


樫月家は、私でも知っている『オーク』ブランドで幅広くビジネスを広げる複合企業の創業者一族だ。


主要な産業は総合商社や科学技術開発。教育業界にも力を入れていて、若い才能あるアーティストの支援なども積極的に行っている。澪音は本来ならこの分野での主要な役割を任せられ、本人も音楽家として活動する予定だったそうだ。


「オークが樫の意味ってことも知らなかったー。てっきり怪物の方のオークだとばかり……」


テキストを読みながら食後のお茶を頂いていると、澪音にカラッとした笑顔で声をかけられた。


「早速げんなりしてるな、柚葉。」


仕立ての良さそうなシャツに艶やかなグレーのネクタイを締めている、スーツのジャケットだけ脱いだ服装だった。

きっちりと服装を整えた澪音は近寄りがたいほどシャープな印象で、今朝は緩んだ顔で寝言を言っていた人と同一人物とは思えない。


あぁ……目の保養になるなぁ……。


「どうした? ぼんやりして。勉強し過ぎたのか?」


「まだまだ序の口だそうですが、私にはもう限界です……」


「茂田が張り切ってたからな。悪いけど適当に付き合ってやってくれ。

でも俺は閨房学だけで十分だと思うよ。疲れたら休んで良いから」


「ケイボウ学? 難しいんですかそれ?」


「嘘、もちろん冗談。

そういうテクニックは求めてないから」


「はぁ、そうですか……?」


澪音の冗談の意味はわからないけど、これ以上新しい単語を覚える気力もない。
< 60 / 220 >

この作品をシェア

pagetop