君に捧げるワルツ ー御曹司の恋と甘い旋律ー
弥太郎さんが本棚の扉を開けると、澪音の演奏を録画したメディアが大量にしまわれていた。

年代順にファイルに整理されて、澪音5歳と書かれたものから26歳のものまで閉じられている。最後のページが空になっているのは、昨日映像を流したからだろう。


「ピアノを止めて一年ってことは、澪音は今27歳なんですね。私の二歳上なんだ」


弥太郎さんは澪音と5歳差だから、32歳ということになる。見た目はもっと若く見えるのに……と眺めていると、


『そんなことも知らなかったのか。

お前は本当に澪音の恋人か?』


と怪訝な目を向けられる。

慌てて目を逸らすも、一度疑いを持った弥太郎さんを誤魔化すことはできず、婚約破棄のために澪音に雇われたことを白状させられた。


「でも結局、澪音はかぐやさんと婚約することになるから、私の役目は終わりです」


「そうだったのか」と弥太郎さんは何かを考えこんでいる様子だ。


『報酬については俺から支払う。どんな契約になっている?』


「いえ、それはいいんです。もともとお金を貰う予定はなかったし。

お礼に曲を作ってくださいと澪音にお願いしてました。

でもまだ一回しか聞けてないから、できれCDが欲しいです。後で澪音に貰っておいてくれますか?」


それに頷いた弥太郎さんは、


『それなら昨晩泣いたのは何故だ?』


と、あまり聞かれたくない質問をする。


「私は澪音のこと、好きでした。不相応なのはわかってますから、澪音には言わないでください」
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