リボンと王子様
秘書になった日。
「……社長。
こちらの書類にも決裁をお願い致します」



広々とした部屋に私の声が響く。

足元にはヒールの音を消すほどの柔らかな絨毯。

木目が美しい深い焦茶色のデスクに、そっと書類を置く。

デスクの背後は一面ガラス張りで市内の素晴らしい景色が広がる。



「穂花ちゃん、今日は時間あるかしら?」

「時間、ですか?」

反射的に腕時計を見る。

入社時にお祝いだと両親が贈ってくれた細い黒革ベルトに、見やすいアラビア数字の文字盤がお気に入りの腕時計。



現在、午後三時を過ぎたところだ。



「そうですね……三時半から役員会議がございます。
終了予定時刻が五時になります。
六時から本町で会食のご予定ですが」

頭の中で記憶を引っ張り出して返答する。

「いやあね、私の予定じゃないわよ。
穂花ちゃんの終業後の予定よ」

ニッコリと微笑む公恵叔母さん、もとい社長。



「私……ですか?
特に本日は何も……」

「あら、良かったわ!
じゃあ一緒に食事に行きましょう!」

「えっ、いえっ、社長!
本日は会食で……」

「ああ、大丈夫よ。
一緒に行きましょう!
是非にって頼まれているの」

「……はあ……」

訳がわからず返事をする私に。

「私から連絡しておくわね。
今日は残業ナシよ」

上機嫌な笑顔を向ける社長。

< 30 / 248 >

この作品をシェア

pagetop