リボンと王子様
お手伝いさんになった日。
冗談のような公恵叔母さんと有子おばさまとの会食後から。

私は俄に忙しくなった。



まずは仕事の引き継ぎ。

私が千歳さんのお手伝いさん、というか女性関係を探る特殊任務に就くということは秘書課では松永室長と美冬さんしか知らない。

他の社員の方々には長期の研修ということになっている。

お給料その他諸々の詳細は公恵叔母さんが有子おばさまとも相談し、松永室長とキッチリ考えてくれているらしい。



とりあえずの契約期間は三ヶ月。

この『とりあえず』というのもひっかかるけれど。



変装は瞳の色をカラーコンタクトで黒色にして、ボブの黒髪のウィッグを使用して、黒縁伊達眼鏡、マスクをつけることにした。

怪しいからマスクはやめたら、と公恵叔母さんに助言されたけれど。



名前も葛城穂花から葛花穂にすることにした。

事前に、部屋の鍵を受け取り、有子おばさまの了解をいただいて、ある程度三号室の掃除をしておく。

有子おばさまからは千歳さんについての資料がドッサリ送られてきた。


簡単な話は公恵叔母さんが教えてくれた。

現在、千歳さんは将来響株式会社を背負って立つために、修行の意味を兼ねて、瑞希くんと同じ橘株式会社に素性を伏せてもらって勤めているとのことだった。

千歳さんも橘株式会社には一般入社試験をきちんと受けたらしい。



瑞希くんと同じ国際事業部に勤務しているけれど、担当地域等が異なっているため、二人の仕事内容は異なるものだという。



……橘株式会社は日本有数の大企業の御曹司を二人も雇用しているなんて。

叔父様達のお知り合いの経営者の方は余程、懐の深い人なんだろう。

橘株式会社自体も須崎株式会社、響株式会社にひけをとらない大企業だ。



他に性格、趣味、まさに個人情報というか私が知ってしまってよいものか悩むプライベートな情報まで有子おばさまからの資料で学んだ。

念のためにそれらも頭につめこむように読みこむ。

あまりに忙しい毎日のため、自室に帰るとすぐに眠ってしまう毎日を一週間程過ごしていた。



そのため、私はすっかり失念していた。

千歳さんの顔写真を見せていただくことを。



そしてそのことを私はこれからひどく後悔することになる。

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