いつか羽化する、その日まで
Day 1 : 私、出会っちゃいました。

夏休みも折り返しに突入した頃、ついに私のインターン初日がやってきた。通勤経路の路線バスに揺られながら、手元の資料に目を落とす。


「ええと、会社名は、マナカ商事。会社設立年は1950年。総従業員数は……へ?! な、七千人?!」


桁違いの人数に衝撃を受けた。七千人もの社員を抱える大企業が、まさかこんな片田舎に存在していたとは。
そんなに大きな会社なら、看板くらい目にしたことあるはずなのだが、全く記憶にない。


「まあ、着けば分かる……よね」


最寄りのバス停で下車した私は、地図に書かれている方角へ颯爽と歩き出した。自家用車でのインターン参加は禁止だったため、バスで通える距離で本当に良かったと思う。

黒・無地・三つボタンのいかにもなリクルートスーツ姿で、置くと自立するタイプの真っ黒いバッグを肩に掛けて歩く。まだ履き慣れていない新しくて固いパンプスが、アスファルトをコツコツ鳴らす。


本日より私、立川渚は三週間のインターン生活を送るのだ。就職課の神田さんに言われるがままにしていたらトントン拍子で決まったインターンだったが、実はとても運が良かったらしい。

申し込みを済ませた後、早速就活の師匠である香織に報告した時にとても驚かれたからだ。何でも、インターンは会社によってはものすごい倍率で参加できないことも多いとか。恐るべしインターン。


『しかもマナカ商事って、結構すごい所じゃない! もしかしたらコネクションができて、採用に繋がるかもしれないね!』


そうひとりはしゃいでいる香織を見て、周りの景色が、時間が着実に動いていることに改めて気付いたのだった。


ーーここまできたら、もう、後戻りはできないんだ。

まるで一世一代の決心のように、私は一歩一歩を踏みしめた。


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