令息の愛情は、こじらせ女子を抱きしめる ー。
令息の愛情が、こじらせ女子を抱きしめた・・・。
 
 "Mariage religieux・・・.”
 
この日。スカイブルーの大空に昇った光り輝く太陽は、大天使ミカエルの加護を象徴するかのように城壁をくまなく照らし出して、まるで私達を祝福してくれているかのようだった・・・。
 未来を見通せるほどに透明な城内の雪解けの雫は、眩い光を浴びて輝き、石畳を伝い大海原へと流れ出していた ー。

 私は、大聖堂の扉が開く前に独身の自分へ密かに別れを告げていた。
 ー 思い出す。この日を迎えるまでに彼と見た数々の景色を・・・。

 とめどなく涙を流しても、何度も拭ってくれたこと、
 遠く離れても、色褪せない想いを持ち続けてくれたこと、
 不安で消え入りそうな心に、優しい灯りをともしてくれたこと。
 
 そう、いつだって。テオドールの愛情が、私を抱きしめてくれた・・・。
 そして、今も。彼の愛情が詰まった”sourire'dange”を見に纏い、彼へと歩むバージンロード ー。
 
 歩みを進めるほどにバージンロードの先に待つ彼の表情が次第にはっきりと見えてくる。
 天上から降り注ぐ陽の光に、ブロンドの髪をきらめかせ優しく微笑む姿は、天使のよう・・・。
 
 私は、テオドールの微笑みに引き寄せられるように、彼のもとへと歩んだ。
 私を神の御前で迎えた彼は、私の父とお辞儀を交わして、父から私の手を引き継いだ・・・。
 
 私達が二人並んで、神の御前に立つと、神父は誓いの言葉を述べて、テオドールと私は互いに、永遠の愛を神に誓い合った ー。
 そして、その証として、私達は左手の薬指に指輪を施した・・・。

 ー こうして私達は、初めて会った運命の場所。モンサンミッシェルで結婚式を挙げた ー
 
 ___________________________________


 「テオ、誕生日おめでとう!」
 今日は、テオドールの30回目の誕生日 ー。
 私は、朝一番に彼へお祝いの言葉を贈った。それから、もう一つお祝いの言葉を贈った・・・。
 「新社長就任おめでとう・・・!」
 テオドールは、お父さんから『sourire'dange』本社の社長の座を譲り受け、今日は就任して初日の出社だった。
 「ありがとう。新社長夫人・・・!」
 この言葉は、私達が夫婦になった証 ー。
 私達は、これからも共に歩み、支え合う・・・。

 今日から、『sourire'dange』の新期が始まる。
 社員の前で新任のスピーチをするテオドールは、いつも以上に引き締まった表情をして出社の準備をしていた。
 彼のキリリとした表情とは正反対の嫋やかな春の日差し ー。
 そこはかとなく薫る、愛らしい花の香り・・・。
 私は、無性に春の花を愛でたくなった。
 ー 彼を会社へ見送ったら、早速ジョエルの花屋へ行こう。
 
 「こんなにいい天気だ・・・。華那は、今日どこかへ出かける?」
 「あなたを見送ったら、ジョエルの店へ行ってくるね。」
 「気をつけて行っておいで。ジョエルによろしくね・・・っ。」

 おろしたての白いシャツを着た彼に、私が真新しいネクタイを結んで出社の準備は整った ー。
 私もエプロンを外してバッグを持つと、出かける支度は済んだ。

 私は、テオドールを会社へと見送るために、彼の広い背中を追いかけるように玄関までついて行った。
 「行ってらしゃい・・・!」
 私が、そう言うと彼は微笑んで言った。 
 
 「一緒に行こう。」
 
 ・・・そして二人で、新たな季節の扉を開けた ー。


< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:5

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

モノクロームのKiss

総文字数/2,070

恋愛(純愛)3ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop