雨の降る世界で私が愛したのは
報われぬ恋
家に帰ると一凛は物置のダンボール箱の中から子どもの頃読んでいた絵本を引っぱり出し、次の日曜日の朝それを持ってまた動物園に向かった。
他の動物たちの檻の前は親子連れで賑わっているのに、やはり隔離されたゴリラの檻の前には誰もいなかった。
ゴリラはいつもの場所に座っていたが、一凛を見ると檻の前にやってきた。
「おはよう、本持ってきたよ」
一凛は手を伸ばし絵本を檻の中に差し入れる。
ゴリラはそれを受け取るとしげしげと眺めた。
「わたしが子どもの頃読んでた本なの、気に入ってもらえるといいけど」
ゴリラは絵本のページを次々にめくった。
最後までめくると本を閉じ「ありがとう」と一凛に言った。
昨日と同じ静かな低い声だった。
「あんまり好きじゃなかった?」
ゴリラがあまり嬉しそうじゃないのが一凛には分かった。
「そんなことない」
「じゃあ気に入ってくれた?」
「ああ、気に入った」