トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
1 始まりのキス
演技だということは分かっていた。


それでも、モニターに写る兄を見た瞬間、全身の血が沸騰したように粟立ち、その場から動けなくなってしまった。


「お兄ちゃん、嫌だ…やめて。」


見たくないと思っても、自然と視線は画面に吸い込まれていく。


兄の拓真(たくま)は切なげに眉を歪め、女性を抱きしめていた。


『自分の気持ちに嘘はつけない。好きだ。愛してる』


吐息のように女性の耳元で囁いて、透けるように白い首筋に唇を這わせる。


『駄目…』


相手役の女性が潤んだ瞳で小さく身動ぎすると、いっそう強く抱き寄せ、大きな掌で腰に手を回す。


兄の顔がアップになる。愁いを帯びた瞳は、熱に浮かされたような眼差しで女性を見つめている。唇が、誘うように開く。


見たくないと思っていても、強く惹き付けられれずにいられない。



「お兄ちゃん…私、そんな顔知らない。」



拓真は女性の顎に手をあて、顔を近づける


「嫌だ…、やめて、お兄ちゃん。」


そんな願いは届くはずもなく、兄は女性の唇に焦がれるように触れた。

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