トライアングル・キャスティング 嘘つきは溺愛の始まり
9 箱庭
黒須瑞希は、朝から何度見たかわからない鏡を覗きこんでため息をついた。


「なんで私、あんなことしちゃったんだろ……」


兄がぎょっとして酷い顔と言ったほど腫れていた瞼は、冷やしたりマッサージをしたこともあり、お昼頃には殆ど目立たなくなってきた。



気を抜くとまた涙が溢れてくるので、できるだけ他のことを考えるように努力している。



長い長い片思いからの失恋は、鉛でも飲み込んだように全身を重たく沈めた。呼吸すら痛みを感じるほど喉が閉じていて苦しい。



きれいな失恋ならまだしも、私はとても人に言えないような恥ずかしいことまでした。



結果として兄をもっと困らせたけれど、こんなに後悔していてもまだ、兄の手の感触や息づかい、痛いほど強く抱き締められた腕を思い出しては一瞬だけの甘い感覚に包まれる。



そのことに比べれば、


私が誰かに憎まれていることや、その誰かが私のバッグに盗聴器を入れたことも、現実感がなかった。


私には、それについて考える余裕がなかった。
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