切ない春も、君となら。
勇気
「なあ、今日の放課後、カラオケ行かね?」

休憩時間に、自分の席で次の授業の用意をしていると、不意に基紀君にそう言われる。


六月。梅雨のじめじめとした気候を吹き飛ばすかの様な素敵なお誘い……と思えたら良かったのだけど。



「いや、行かないかな」


私はあっさりとそう答えてしまった。


カラオケ、そんなに好きじゃないんだよな。
莉菜と泉とよく行くけど、私は歌うのそんなに得意じゃないし。



「お前な、もっと悩んでから断れよ。俺、傷付いちゃうだろうが」

「大丈夫だよ。ヒトカラもきっと楽しいよ」

「何で俺が一人でカラオケ行くことになってんだ。俺はお前と違って友達いっぱいいるんだよ」


言い返そうかと思ったけど、私に友達が少ないことは事実なので何も言えなかった。


「一人じゃないってことは、他にも誰か行く予定なの?」

そう聞くと「当然だろ」と返される。
そして、それとほぼ同時に。


「えー! はるはるカラオケ行かないの⁉︎」

基紀君の後ろから、杏ちゃんがひょこっと顔を出す。


「杏、女の子の友達とカラオケ行ったことないから楽しみにしてたんだけどなぁ……」

しょんぼりとした表情でそう言ってくれる杏ちゃんの両手を、私は気が付いたら無意識にぎゅっと握っていた。


「行く! 行くよカラオケ! 楽しもうね!」

そう言うと杏ちゃんは喜んでくれたけど、基紀君には「俺が誘った時と全然態度違う!」と軽く怒られる。だって、ねぇ、基紀君だし。
< 63 / 160 >

この作品をシェア

pagetop