侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
「暴力はふるっていないよ、いや、あれはある意味暴力だな、ははは」

私が聞きたいのは、そんな回りくどい詩や哲学みたいなフレーズじゃ無くて……。

子猫のように小首をかしげ、
「わたくし何をしてしまいましたの?(にゃおん)」

「昨夜の帰り、車が道の悪い所を通ってね、その揺れが呼び水になったのか、その後、後部座席は阿鼻叫喚のゲ〇池地獄さ」

「え……」パチクリ

「絶え間なく溢れ出して、君、古代ローマの共同浴場に付いてるライオンの吐水口そっくりだったよ。君は誰かを血まみれにしたのでは無く、その口で僕を吐瀉物まみれにしたのだ。いやぁ、まさかこの僕があんな悲惨な目に遭おうとは、人生とは思いがけない事の連続だねぇ、エセル」

身から出た錆、口から出たワイン、頭真っ白
このまま消えてなくなってしまえたら……

「君さっき『私を自分の邸に連れ込んで!』とか何とか言ってたね? 君が盛大に噴水し始めた場所から我が家までは車で10分、君の家までは25分、自宅に連れ帰った僕の判断は間違っていなかったと思うけど、どうかな?」

「おっしゃる通りでございます」
しなびたキュウリのように情けない声を出しました。

「それにあの時は、僕も君もドロッドロでとてつもない匂いだったし、たとえ君の家の方が近かったとしても、君の家直行なんて選択肢はあり得なかったけどね」

レイモンド様は居丈高ながら、若干揶揄うような口調でおっしゃいました。

豆粒みたいに小さくなってコメつきバッタよろしく、
「本当に本当に申し訳ございませんでした!」

「分かればよろしい」

「でも何もわたくしを泊めなくても、家に使いを出して頂いて、迎えに来るようにこと付けて下されば、済みましたのに。勿論お詫びは後日(ぶつぶつごにょごにょ)」

そうしたら傷物にならずに済みましたのに。しゅん

皮肉な笑みを浮かべながら、片眉を蛾の触角のように跳ね上げるレイモンド様。

「多大な迷惑かけといて、まだ言うか! 邸に入るなり『わー、シックなお邸ぃ、今夜はここに泊ーまろっ!』って声弾ませてたのは君だぞ、君!」

う゛っ……

「僕は大迷惑かつ小汚い君の願いを聞いて、君の家に使いをやって『御令嬢は体調が思わしくないようだから、うちに泊める』とちゃぁんと連絡までしてやったのに、あ~あ、まったく君みたいな恩知らずは途中で車から放り出してやれば良かった!」

爪先めがけてさぁっと血の気が引いていくのが分かります。

刑事さん、私が犯人です!
「全てわたくしが悪うございました」

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