侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
何より驚いたのは、下僕のように甲斐甲斐しく、しかも幸せそうに楽しそうに、猛獣……失礼エセル様に尽くす旦那様のお姿です。

お風呂に入れて着替えさせてあげて、綺麗だ可愛いと誉めそやしながら髪を乾かしてあげて、長椅子に座った旦那様の膝の上に、仰向けに寝そべったエセル様の頭を載せて歯を磨いてあげて、子供にするように手ずからお水も飲ませてあげて、他にも細かい事をあげ始めたらきりがないくらいの御様子でした。

「侯爵様って案外親切なのね」

「エセル、侯爵様は止めて欲しい。レイと呼んでくれる約束だろう? その……恋人同士なのだから(ごにょごにょ)」

恋を知りたての少年のように恥ずかしそうに頬を染め、心配と嬉しさが入り混じった声でおっしゃる旦那様を、エセル様はどこか他人事のように不思議そうに見つめていました。

「こいびとぉ?」

「レストランの貴賓室で約束してくれたろう? 結婚もしてくれると……。僕は君を誰にも渡さないよ……」

最後の辺りは、ブツブツごにょごにょ

自信に満ちたいつもの姿はどこへやら、眉尻を下げ完全に下手に出て、エセル様の顔色をうかがう臆病なダメ犬……いえ我が主。

「ふ~ん、そうなのぉ? 分かったわ侯爵様」

「全然分かってないね」しょんぼり

旦那様がエセル様を好きで好きで仕方が無いというのは、誰の目にも明らかでした。

粗暴で小汚いエセル様にはかなりビックリしましたが、旦那様のしまらないお顔、いえ、溢れ出す喜びで緩みっぱなしのお顔が、微笑ましくもありました。

成就して欲しいと使用人一同願っておりましたが……




エセル様がお帰りになってから早一ケ月、旦那様は、『エセル(白薔薇)』を見ながらしょんぼりしたり、溜め息ついたりブツブツ独り言言ったり、兎に角いつもどよよよよ~ん(よの多さがポイントよ)と雨雲背負って、ハッキリ言って暗くて重くて気持ち悪い! 
そして何よりお寂しそうで心配です。

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