侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
昨日の敵は今日の友
運転席と後部座席はパーティションで隔てられているので、狭い密室にレイモンド様と二人きり、気まずいったらありゃしません。

ホント、息苦し過ぎて窒息しそうです。

「あの侯爵様?」

レイモンド様は少しだけ顔を動かし、横目で私をご覧になりました。

「なんだ? 君とは極力口を利きたくないのだが。あぁあ、そうか詫びか? 今更そんなものは要らないが、どうしてもと言うなら……」

何だか拗ねている時のフレッドを見ているようです。

「口を利きたくない」とおっしゃる割にはホッとされているような表情に見えますし、特に「詫びか?」の辺りは少し嬉しそうです。

だからってご機嫌なんて取ってあげませんけどね!

「あの、『わび』と言うのは、珍しい食べ物か何かですの? 要らないも何も、わたくしそんなもの持って来ておりませんわよ、ほほほ」

「君は相変わらず可愛げの無い言い方をするのだな……」

そうおっしゃって目を逸らすレイモンド様。
窓に映る表情は車内の仄暗さも手伝ってか、怒っていると言うよりも寂しそうに見え、私は少し罪悪感を覚えました。

「あの侯爵様……、先日は間違った事を申し上げたつもりはございませんが、確かに言い方が意地悪でしたし、今も生意気でしたわね。申し訳ございません」

素直に謝ると、今度は面食らったような顔でこちらを向き、「あ、いや、いいのだ」とポソリ。
反応が穏やかで、なんだか調子が狂います。

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