(……私は……大丈夫。こんなに長く伯睿と一緒に過ごせて、もう十分幸せだった。そうでしょう?
 夢みたいな思い出は、お伽噺の『いつまでも幸せにくらしました』みたいに、綺麗に終わってほしい。……だったら、この選択で大丈夫!
『華翡翠』コレクションが成功して、十周年セレモニーも成功して……伯睿が、幸せになるの)

 一花は、もう一度強く頷いた。
 伯睿の双眸をしっかりと見つめ、彼女は再度「この翡翠を、使って」と真剣な声色で続けた。

「だって――世界が伯睿の『華翡翠』コレクションを待ってる」

 大輪の花が綻ぶような笑顔で背中を押され、伯睿は目の覚める思いがした。

 視界が、全てが、クリアになっていく。
 黒白になっていた世界が、再び色づいたようだった。

「……ありがとう、一花」

 伯睿は頷くと、翡翠の指輪を手にアトリエへ向かった。



 翌朝、一花が起きた時には既に伯睿の姿はなかった。
 朝食を作り、ダイニングテーブルに並べようとしたところ、ぽつんと置いてある一花の宝石箱を見つけた。
 一旦テーブルへ料理を置き、手を拭う。

 朝日が差し込む清々しい空気の中、宝石箱の蓋を開いた。

 一花は、眩しい光を見つめるように目を細める。


 新しい石座に鎮座した翡翠は――本当に、美しかった。