「世界には、たくさんの“美しきもの”が眠っています……。それを、自然のまま在るべき場所でそのままにしておくのも良いでしょう。
 けれど、そのものにとっての“その瞬間”が来たら、決して見逃してはいけません。何があっても、決して離してはいけません」

 お祖母様の視線が、彼女の大切にしている庭へと向けられる。
 お祖母様の書斎からは、亡きお祖父様が自ら作り上げた壮麗な日本庭園がよく見えた。

「“美しきもの”を見落とすことは、大切なものを失うことと同じこと。
 ……とても悲しいことなのです。
 わたくし達は、世界が作り上げた“美しきもの”を磨き上げ、さらなる成長を願わなければなりません。わかりますか?」

「はい、お祖母様」

 この原石の素晴らしさと大切さを理解せず、粗末に扱う者もいるだろう。
 本来の輝き方を示すことができない者も、いるかもしれない。

 そして、未来のあるものの成長を願わず、潰してしまう者も。――全ては、“美しきもの”に、気がつかずに。

「伯睿は素晴らしい眼を持っています。“瞬間”を大切に生き、そして貴方の“美しきもの”に対して誠実でありなさい。そこに、大切なことがあるのですから」

 お祖母様は、いつもの凛とした面差しをくしゃくしゃな笑顔に変えて、俺の頭にそっと手のひらを乗せた。


 今でも、その瞬間のことは全身で覚えている。


 ――あれが、“美しきもの”を感じた瞬間なのだと。