御曹司のとろ甘な独占愛
 離陸する飛行機。
 徐々に日本から離れていく機体に、少しだけ哀愁を感じる。けれどもそれ以上に、一花の頭を占めるのは彼のことばかりだった。

 ……幼い頃に出会った、忘れられない初恋の人。

 十五年前のあの頃は、無料通話アプリなんて便利なものは存在しておらず、ましてや一花は自分用の携帯電話もパソコンも持っていなかった。だから、異国というだけで遠い距離を感じていた。

 連絡先を交換しても、きっと年月ばかりが過ぎていくばかり。自分の働いたお金でもないのに、外国に会いには行けない。
 ましてや、先に大人になっていく彼のことを祝福し続けていくことなんて、臆病な自分にはできなかった。

 だから、あの思い出が、お伽話のように終わればいいと思った。『いつまでも幸せに暮らしました』……そんな風に。

 けれど、実際は全然忘れられなくて。
 女子高生になって友達に彼氏ができていく中、ただ一人過去ばかり見ていた。

 想い出の朝顔が酷い台風で枯れてしまった時、手に残った一粒の翡翠に必死に想いをはせた。

 女子大生になった時には、将来は翡翠に関わりたいと思った。
 日本で翡翠に関われる会社を探して、日本貴賓翡翠が台湾との関わりがあると知って、それだけで舞い上がるような気持ちで……。

 就職試験に挑み、入社して――


(……彼は、元気にしているかな。少女漫画みたいに、道端で偶然会えたり、……しないかな?)

 そんな期待と不安が入り混じる。

(もしも会えたら――今度は。「あなたのことが、好きでした」……そう、笑顔で言えたらいい)

 大切な翡翠の指輪を握りしめ、瞼を閉じる。
 彼の優しい声や、照れたような仕草が、鮮明に思い浮かんだ。


(――十五年前の色鮮やかなあの初恋は、今もまだ、私の心の中で生きている)
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