軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
◆プロローグ◆

月下の拾いもの



 太陽の恩恵を失った空が闇に包まれて、潮風がひんやりとする夜。島の神殿の裏手にある砂浜をひとりで歩いていたセレアは足を止めた。


(あれは、なにかしら)


 手元のオイルランプと雲に陰る淡い月明りだけでは頼りないが、目を凝らすと砂浜に上陸している黒い物体が見える。それは数歩近づくと人のように見えなくもない。


 セレアはゴクリと唾を飲んで、意を決したように一歩を踏み出す。心臓がバクバクと鼓動を早め、緊張からか口内は砂漠のように乾いていた。


「はぁっ、ドレスが重いわ」


 セレアは純白を基調としたエンパイアラインのドレスを身にまとっている。素材は島で摂れたワタの種子から作られる木綿のモスリン地で肌触りもいい。袖口や裾にも職人の腕の良さが際立つ繊細な金糸の刺繍が施されていて、目を引く一品だ。


 ただ、その裾はとにかく長く、今もこうして地面を引きずってしまうのが欠点だった。

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