軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
◇一章◇

傷だらけの漂流者



 神の住まう絶対不可侵の島国、カエトローグ島。馬車で二日もあれば全土を回りきれるほどの小さな島だが、他国から攻め入られたことは一度もない。


 セレア自身は見たことがないのでにわかに信じ難いのだが、この国に侵入しようとする船は神の逆鱗に触れて必ず沈没し、島の人間以外がこの地に足を踏み入れようものなら鶏の姿に変えられてしまうらしい。


 しかも、その鶏は獅子神の食事に出されるのだとか。


 そういう伝説がこの島の外でも広まっているらしく、他国からの襲撃は一度もないと聞いている。


 噂というのは信じる者がいれば現実に起きていなくても、真実として伝えられてしまうから恐ろしい。今だって他国の男がセレアの自室で休んでいるが、朝が来てもその姿は鶏になどなってはいなかった。

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