秋の月は日々戯れに


「じゃあ、行くってことで決定ね。くれぐれも残業になんかならないように、気合入れて仕事してよ」


また力強く背中を叩く音が響いても、今度は視線が集まったりしない。

その代わり彼の目尻には、痛みからくる涙が薄らと滲んでいた。


「さてと、あたしも仕事、仕事」


唐突に真面目な顔に戻った同僚が、くるりと椅子を回して仕事を再開する。

その背中に、何か言ってやりたいと言葉を探してしばらく立ち尽くし、やがてハッとする。

これ以上無駄に突っ立っていたら、暇を持て余していると勘違いされて、また余計な仕事を増やされる。

今のままでも、目の前の同僚より多くの仕事を抱えている身としては、これ以上仕事が増えるのはなんとしても避けたかった。

それもこれも全部、上司や先輩や同僚達から流れてきたものだったが、引き受けてしまった以上文句も言えない。

とりあえず、カタカタとパソコンのキータッチをしている背中を睨みつけてから、彼はそそくさと自分のデスクへ戻る。

それからは、残業を避けるために一切の脇目をふらずに仕事に取り組んだのだが、気がついたら二、三個仕事が増えていたのは、どうにも納得できなかった。



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