お気の毒さま、今日から君は俺の妻

 年のころは三十過ぎくらいだろうか。妙に迫力のある男だった。黒髪に、眼光鋭い切れ長の目じりは上品な猫のように吊り上がっている。そして通った鼻筋と、意志の強さを感じさせる一文字に結んだ唇からは、人に命令することに慣れている、そんな気配を感じさせた。

 ぶつかってきた青年ほどではないが、身長はかなり高い。185近くあるのではないだろうか。そしてスーツの胸元には一輪の花が――椿の花が飾られていた。今どきフラワーホールに花を飾るのは結婚式の新郎くらいだが、ここはKATSURAGI主催のパーティーだ。おかしいどころか、その男の冷たい端整な美貌に相まって様になっていた。


「あっ、副社長、申し訳ありませんっ……オレが、この人にビールをかけてしまって……!」


 クマに似た青年が、大きな体を丸くして澄花を振り返る。


「ビール?」


 副社長と呼ばれた男は怪訝そうに眉根を寄せた後、青年の背後で固まっている澄花の存在に気付いたのか、歩み寄ってきた。


「申し訳ありません。弊社社員がご迷惑をおかけしまし――た」


 流暢な、けれどどこかセリフのように聞こえる謝罪の言葉を紡いでいた男は、澄花を見て、呆けた表情になった。


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