お気の毒さま、今日から君は俺の妻

番外編：小さなやきもち

（やっぱり龍一郎さん、ご機嫌が斜めだわ……）


　澄花は運転席でハンドルを握る龍一郎を見て、少しだけため息を漏らす。

　絵に描きたくなるような美しい横顔で、端整すぎるがゆえに他人には無表情に見える龍一郎だが、澄花にはわかる。
　これは間違いなく怒っている顔だ。

　澄花はおそるおそる、だがまったくなにも気づいてないふうを装って、ほがらかに龍一郎に話しかけた。


「龍一郎さん、喉渇かない？　どこかでお茶でも飲んでいく？」


　とりあえず車を降りて、冷たい飲み物でも飲んでおしゃべりすれば気がまぎれるかと思ったのだが、

「――いや、別に」

　その澄花の提案はあっさりと却下されてしまった。


（別にって……）


　いつもの龍一郎なら、澄花のこういった提案には即答でオッケーするし、むしろ長い運転の合間では、自分が飲みたいうんぬんよりも、澄花を気遣って休もうと言い出すのが常なのだ。
　なのに今回に限っては、『いや別に』である。