お見合い愛執婚~俺様御曹司に甘くとらわれました~
誕生日なのに



「本日は天気もよくて何よりですわ」



目の前の中年女性が口元を指で隠しておほほと笑う。

絵に描いたような笑い方と言葉に既視感を覚える。



ドラマか何かだけだと思っていたけど、本当にこんな感じなのね。




紫のフレームの眼鏡とショートの髪に当てたパーマ、ふくよかな体型がまさに世話人というイメージそのものの長田さんに私は圧倒されていた。



「本当ですわね」



隣の母が同じようにおほほと笑う。


普段そんな笑い方などしないのにすっかり場に飲み込まれている。

ホテルの日本庭園の見える懐石料理店で私は母と二人、着物に身を包んで座している。




なぜこんな状況になったのかというと、私もよく理解していない。



ただ、今日は私の二十六歳の誕生日。


日曜日と被ったのもあり、今日は着物を着て写真でも撮ろうと言われた。


うちの実家は呉服屋兼撮影スタジオを営んでいるだから、着物も撮影もタダ。


毎年誕生日に私と姉は記念撮影をすることが恒例だったから、疑いもなく自分の借りているマンションから一時間圏内の実家まで帰った。


そしたら、いきなりお見合いだと言われた。





「藤野さん、ごめんなさいね。先方少し仕事が押してるみたいなの。こちらに向かっていると連絡は入ったのだけれど。それにしても桜子さんお綺麗ねぇ。ほら、着物のカタログのお写真にもたまに載ってらっしゃったでしょ?目を奪われるわ」

「はぁ」

「桜子」




私が気のない返事をしたら、母がテーブルの下で腹部に肘鉄を打ってきた。

呻きそうになるのを慌てて口元を引き締める。


窮屈な着物も今は帯が鎧替わりになったからよかった。


着物のカタログにはモデル代を節約したい両親に頼まれて大学の頃からちょくちょくさせられていた。


最近も一度頼み込まれてワンカットだけ撮った。


それが見合い写真にも使われているのを知ったのは今日だ。
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