今宵、エリート将校とかりそめの契りを
復讐の刃
明治の御世が終わり、大日本帝国は、先の戦争特需に湧いていた。


時は大正――。


帝都・東京は、明治時代に始まった文明開化の流れを汲み、西欧風の街並みが広がっている。
帝都でも有数の繁華街・銀座界隈には、この数年間で東京駅、百貨店などが相次いで建造された。
目抜き通りには、レンガ造りの建物、商店、カフェが建ち並んでいる。


人々の生活にも、西欧文化は取り入れられていた。
財閥誕生と共に増え始めた、サラリーマンと呼ばれる職層の男たちは、ハイカラーのシャツに背広、ズボンといった、スーツと呼ばれる洋服を纏うようになった。
しかし、女性にはまだ洋服は根付いていない。
多くの女性たちは、袴などの着物姿だ。


まるで異国に足を踏み入れたような錯覚を覚える、和洋入り乱れた風景、それがこの銀座の街。
普段は多くの買い物客が行き交う大通りは、十一月、初秋のこの日、警察による交通規制が敷かれていた。


いつもは路面電車が走る通りの中央を、軍服姿の陸軍幹部を乗せ、日の丸に軍旗をはためかせた黒いフォード車が連なり、ノロノロと亀のような速度で走る。
その周りを、騎馬に跨った若きエリート将校たちが護衛に就き従い、沿道に集まった見物人たちに鋭く目を光らせていた。


今日、この銀座の街で、先の世界戦争で勝利を治めた大日本陸軍による、凱旋パレードが行われていた。
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