今宵、エリート将校とかりそめの契りを
永遠に続く愛
正一の件は忠臣に任せた為、総士が乗ってきた車と運転手は、そのままそこで待機させることになった。
必然的に、琴は往路と同じ経路を辿って名取家に戻ることになり、総士と二人、路面電車に揺られた。


帝都に上る電車は、行きと違って幾分空いている。
琴はソワソワと落ち着かない気分で、総士と並んで座席に腰を下ろしていた。
先ほどからずっと繋いだままの手は、二人の身体で隠れて他の乗客には見えない。


しかし、終始真っ赤に顔を火照らせている琴と、涼しげではあっても三角巾で腕を吊った軍服姿の総士は、嫌でも人々の好奇の的になってしまう。
老若男女、様々の乗客が、並んで座る二人をジロジロと遠慮なく見遣る。
日清の戦争の記憶が残っていそうな中高年世代に至っては、わざわざ近寄ってきて総士を激励していく始末だった。


銀座で路面電車を降り、総士に手を握られたまま、賑やかな通りを歩く。
ここでもやはり二人は注目されるが、視線を集めているのは主に……いや、ほぼ総士だけだ。


女学生から少し大人の世代まで、すれ違うほとんどすべての女性が総士を振り返っては、うっとりした目を向ける。
その隣で手を引かれて歩く琴は、肩身の狭い思いで首を縮めたが、総士の方は先ほどから表情を変えることはない。


おかげで、少し歩くと見られることに慣れてきて、琴はそおっと隣を歩く総士の横顔を見上げた。
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