週に一度のピアノレッスン

先生の家へ通うのがとても楽しみだった

季節の花が咲き乱れるイングリッシュガーデン

白くてフワフワの大きな犬

鳩が飛び出す時計にキラキラのイルカの置物


目にするもの全てが絵本の中のようで
大好きだったのに・・・

習い事を勝手に増やしたママは

『愛華さん。来月からは自宅レッスンにしたからね』

手間が省けたでしょって笑っていた

最後のレッスンで先生にお願いして
キャビネットの中のスワロフスキーを見せてもらった


どうしても触りたかったのは


イルカ・・・
泳げない私には持ってないもの

窓から射し込む光を纏って

乱反射するガラスがキレイ

気付けばレッスン時間を少しオーバーしてしまった

『あいちゃん。もうかっちゃんが外で待ってると思うの・・来月からは先生があいちゃんのお部屋に伺うわね』

長いウェーブのかかった黒髪を耳にかけながら
優しく笑う先生にお礼を言うと

いつものように重い扉を出た


すぐ目の前に腕組みした同い年くらいの男の子が立っていて
睨み付けるようにアゴを上に突き出している


たまにすれ違いで顔を合わせる程度だったけれど

マジマジと顔を見たのは初めて

鋭く見つめる視線から逃れたくて・・


とってつけたような笑顔を作ると

『ごきげんよう』

と“良い顔”を崩さないように
そう言ってもう一度顔を見ると

真っ赤な顔をして怒りだした

『お、お前さ!
時間オーバーしてんのに笑って、
ごきげんよう!って馬鹿じゃねーの?』

ーえっとー
初めてのタイプに暫し固まる

キョトンと見つめた先の瞳には

クルクル巻き毛の私が映っている

初めて声をきいたのに
いきなりマックス怒っている

スワロフスキーを見てたから
待たせてしまったんだ


ごめんね・・そう言いたいのに

大きな声で怒られた事にショックで
唇が開かない。

その代わりに出たのは
ポロポロと頬を伝う涙

それに気づいた男の子は
急に真っ赤な顔でオロオロし始め

『泣きたいのはこっちなんだぞ!』

人差し指の先で
全開にしたオデコをピンと張った

痛みと同時に閉じた瞳から更に涙が落ちた

動けないままの私の横をすり抜け
重い扉の中に消えた男の子


初めて声を交わしたのに
いきなり怒られデコピンされた


そんな強烈な印象も・・・


11歳の記憶には
そう長くは留まらなかった。

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