お見合い相手は無礼で性悪?
二度目の婚約破棄と嫉妬とその先と

両家の話し合いで
結婚式は6月に決まった


『いずれは同居することになるだろうが
気が済むまで二人で暮らしなさい』


父が用意してくれたのは新築の分譲マンションだった


本当はこれから始まる二人の生活に必要な物を
二人で選びたかったのに


『愛華さんに任せます』


彼はそう言って全てを私に押し付けた


“任せます”なんて、一見優しい言葉だけれど
裏を返せば興味ないことの証明みたいなもので

誘って断られるくらいなら
一人の方がよっぽど気楽だと
一人で準備を始めた


新居に足を運ぶ度に無機質の空間に色が入る

本当なら楽しいはずのそれも・・・

ちっとも楽しくない


バルコニーに出て夕暮れの景色を眺めていると・・・

沈みゆく太陽の色に魅せられて


少し、泣きたくなった






式が決まってからの私はため息ばかり吐いていた


・・・マリッジブルー


友達に相談すると必ずそのひと言が返ってきて
いつしかそれも封印した


結婚式前なんて幸せの絶頂じゃないの?



少しずつネオンの灯り始めた街の灯りを目に焼き付けて



・・・頑張れ



自分にそう言い聞かせて新居を出た



こんな日は特に真っ直ぐ帰りたくなくて
街へ向かう口実を作る


手っ取り早い時間潰しに選んだのは映画館で
大きな会館は週末でもないのに混雑していた

見たい映画は公開終わりが近づいた所為なのか空席が目立っていて、良い席を取ることができた


久しぶりのお一人様に少し気分は上がっていた


開始時間までにドリンクコーナーの列に並んだ私の目に

見覚えのある背中が飛び込んできた


・・・っ


いつもいつも見ている背中は間違えるはずがない


仕事帰りのスーツ姿は
背の高い彼に似合っていて

悔しいけれど格好いい


悪いことをしている訳でもないのに
前に並んでいる学生達の影に隠れてみる


・・・なんの映画を見るんだろう?


不覚にも興味津々な私は
予定のない初めての遭遇に浮き足立っていた


・・・振り返ったらどうしよう


・・・どうして振り返らないの?


矛盾を繰り返す頭の中はもはや自分でも止められない


気づいてくれてたとしても
一緒に映画を見る訳じゃないのに

高揚した気分は抑えられず
楽しいことを見つけ出したようだった






彼の隣に立つ女の人に気付くまでは・・・





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