お見合い相手は無礼で性悪?



有名な作家と違い
クラシックが柔らかに流れるホールは閑散としていた


『おや?一翔君じゃないか』


スーツ姿の老紳士が
彼に近づき手を取った


『先生お久しぶりです』


手を取り合って再会を懐かしむ二人を
少し離れたところで眺めていると


先生と呼ばれた老紳士が私に気がついた


『一翔君、こちらは?』


その声に誘導されるように近づいた彼は
ニッコリ笑って隣に立つと


『僕の婚約者の斎藤愛華さんです』


丁寧に紹介してくれた


『はじめまして』


それに応えるように丁寧に頭を下げた私に
『おめでとう』と婚約を喜んでくれた

更には夜のパーティーにも是非と参加を促され
お世話になった先生だからと断りきれない彼は私に確認を取ると快諾した


ホールの中をを付かず離れずで作品を見て歩く

時折立ち止まり
少しずつ大学の頃の話しをしてくれた


その先生が趣味で続けている現代アートに
学生が加わり展覧会を開くほどになったという



『一日一緒でいいかな?』


一日という長い時間を過ごす不安がない訳ではないけれど

断る理由もなくて『はい』と答えれば
彼は白い歯を見せて笑った


どちらからともなく自然な会話を楽しむ


初めて楽しいと思えるデート


ただ、歩く・・・
たったそれだけなのに、楽しい

気持ちが解れるごとにお互いの距離が縮まり

気がつけばいつもより三歩か四歩ほど彼に近づいていた

・・・だって

見上げると背中ではなくて彼の左の頬が見える


結婚するなら・・例えそれが政略だったとしても仲良くしたい


そう願っていたことが
少しずつ叶っているように思えた


アート展を出た後は街へと出ることになった

二人で歩く歩道では向かいから自転車がくると
スッと肩を抱き寄せ守ってもらえる


その度にドキドキして赤面する私は
しばらく彼の顔すら見上げられない状態に陥る


そんな私の様子を見ながら
カメレオンみたいだと笑う彼


『モォォ』と頬を膨らませれば
お子ちゃま扱い・・・


・・・恋人同士ってこんな風?


楽しい時間に気がつけば笑っていた


『思い出し笑いするヤツはスケベなんだぜ?』


茶化すように目線を合わせる彼は
ハハと心底楽しそうに笑うから




その白い歯に胸が跳ねた













< 33 / 51 >

この作品をシェア

pagetop