お見合い相手は無礼で性悪?

西日が眩しい時間帯に差し掛かったようで
両手で顔を覆う私を見かねて、彼は日除けを出してくれた


冗談を混ぜながら
話しかけてくれる彼とのお喋りも

マンションに近づくごとに
笑えなくなってきた


そんな私は


『なに?そんなに緊張しなくても
誰も取って食ったりしないぜ?』


彼に軽く笑い飛ばされた


マンションに着くと
今度はクローゼットの右側に種類と色に分けて収納していく


数ヶ月後には更に増えるであろう洋服も


ここでの暮らしも


実感がわかなくて・・・戸惑う


それでも

ハンガーにかけた洋服を眺めていると


『柔らかい色の服が多くて良いな』


不意にかけられた声に肩が跳ねた


『クッ』


過剰なまでの私の反応を楽しむかのように
彼はそうやって不意打ちを楽しんでは笑っている

一歩、また一歩と近づきつつある関係だけど


まだまだ駆け出しであることに変わりはないから

私の態度がぎこちなくても当然


それよりも

手慣れたような彼の態度のほうが
気になっている自分がいた


『キッチンは直ぐにでも使えるようになってんの?』


キッチン内の扉を開け閉めしながら
揃えられたものを確認していく彼は

お鍋やフライパンの感触を確かめるように手に取っている


『お料理するの?』


『あぁ。学生の頃は自炊してたからさ』


さも出来ると言わんばかりにキラキラした笑顔を向けるから
少し意地悪な気分にもなった


『お料理本?それとも・・彼女にでも教わったの?』


チラリと表情を見ると


『気になるか?』


逆に返されてアタフタする


なるべく平静を装って
『別に』と短く答えたのに


クスッと笑われて結局は負けた気分になった


『なぁ、晩御飯を二人で作ってみようか?』


ハート型の鍋蓋を胸に当てながら笑うから


『冷蔵庫は飲み物しか入ってないよ?』


彼の後ろをすり抜け冷蔵庫の扉を開けてみせる

そんな私の背後に立って更に扉を開いた彼は


『ホントだ、買い物行こうか』


意地悪なことに私の肩に顎を乗せて耳元で囁いた


『ヒャッ』


驚いても動かせない身体は固まったまま

用もないのに冷蔵庫を覗いたままの私は
耳が熱くなるのを感じながらコクコクと頷いた



それも彼にはおかしかったのか


『なになに?近づきすぎてまた固まってんの?』


ハハハと大きな声で笑われた



男の人が至近距離にいることに慣れていないのだから

どう考えたって当然の反応なのに


毎回、顔を赤くした分かりやすい私は
彼に揶揄われるしかなかった





< 41 / 51 >

この作品をシェア

pagetop