「…血圧、大丈夫だな。薬飲んで寝るか」

「はい」

「…と、その前に見せたいものがある」

凜はきょとんと首を傾げた。

寝室のタンスの一番奥にしまってあるクッキーの缶。

俺が昔、宝箱代わりにしていたものだ。

その中に入った4つ折りの手紙を後ろ手に隠して凜に問う。

「…今日何の日だか知ってるか?」

「え?何の日って…」

覚えてるわけがないよな。

内科医院の跡地を見ても、凜は気づかなかったから。

…凛のおばあさんももう亡くなって、こっちに来ることはなくなっていたのかもしれないから。

「5月5日…あれからちょうど20年だ」

手紙を渡したら、最初はよくわからないといった表情で見ていた凜は、突然目を見開いて、大粒の涙を流し始めた。

手紙に目を落としたまま、凜は口元に手をあてる。

「…謎が…全部解けました。
キヨさんの出棺の時に思い出しかけた何かも、心筋炎の時に聞こえた『頑張れ』の声を懐かしく思ったのも…
あ、あと悠さんがやたらと迷子の心配をしてたのも」

凜はクスっと笑って顔をあげ、まだ大粒の涙を流しながらも、満面に笑みをたたえた。

「…悠さんは、昔から私のヒーローだったんですね」

凛の髪をなでながら、俺まで泣きそうになる。

「…俺が医者になるきっかけをくれたのは、凛だったんだよ」


あの日の話をしよう。

きっと君は、あんまり覚えていないだろうけど。

君に伝えたい。

俺がこの手紙を、どれだけ嬉しく思ったのかを。

俺たちはきっと、ずっとどこかで繋がっていたんだ。

だからこれからも一緒に。


生きていこう。ふたりで—————・・・






fin.