「…夕飯の買い物をして帰ろう」

先生はゆっくりしたペースで私の手を握ったまま歩き出す。

「先生、ごめんなさい。先生は悪くないのに…謝らなきゃいけないのは私だったのに…」

「…先生じゃないだろ」

不意にあごを持ち上げられ、そのまま唇が触れた。

唖然としてしばしフリーズ。

「~~先生っこんな人の多いところでっ」

心臓が可笑しいくらいに騒きだし、ゆでだこみたいになっている私に、周りからの視線を痛いくらいに感じる。

「先生じゃないって言ってるだろ。
ちゃんと呼ばないともう一回キスするぞ」

「~~悠さんっ」

先生はふっと笑って、よくできました、と大きな手を私の頭に乗っけた。

「…殴られるくらいの覚悟はしてたんだけどな。
向こうにとってみれば理不尽な話だから…
俺が勝手に凜を奪ったわけだから」

いちいちドキドキしてしまう。

さっきの『彼女を譲るつもりはない』も、『俺が勝手に凜を奪った』も。

森田さんには申し訳ないことなのに、こんな時に先生にときめいている私はすごく不謹慎だと思う。

だけど、先生は自分が悪者になってまで、私を守ろうとしてくれたことがすごく嬉しかった。

やっぱりお見合いの話を断って、先生と結婚してよかったと素直に思った。

たとえそれが、お互いに恋愛感情のない『契約結婚』であっても。