借金のカタなのに溺愛されてます?
ヤクザですよね?


恐ろしく乗り心地の良い
車が停車すると


「・・・・・・っ」


目に飛び込んできたのは
武家屋敷かと見紛うような大きな家だった


シャッターが開くのを待ち
厳つい車が何台も並ぶ駐車場へと滑り込むと静かに停車した


先に両脇の男が降りると
ドアを開けたまま外に立った

トロピカルの香りのする方が掴めと言わんばかりにサッと手を伸ばして
無言で降りろと促す

降りたくないけれど
そんな選択肢はありそうもなくて
その手を避けるように降りた


小刻みに震える肩を
隠す術も見つからないまま


前後を挟まれて歩く


武家屋敷までの敷石を
重い足取りで進むと


旅館かと驚く程広い玄関が開かれた



「やぁ陽菜ちゃんいらっしゃい」



出迎えたのは一見すると某アイドル事務所に所属しているようなイケメンだった


片側を後方に流した緩いウェーブの茶髪はスタイルブックの表紙みたい


白いTシャツにチノパンという
ラフなスタイルは

やっぱりモデルかアイドルのようで

凝視してしまった


「・・・緊張してる?
 ま、そりゃそーだよな・・・
 いきなりココへ連れて来られて
 笑顔で挨拶されてもね、あっ俺は
 田嶋一平《たじまいっぺい》“いっぺい”って呼んでね」


目の前の一平という人のお陰か
さっきまでの緊張が幾分解れたのだろうか

呆気に取られてポカンと口を開けている不細工な私に


「やっぱ可愛いね
 どうぞ、こっちだよ」


と“可愛い”なんてお世辞を言い
スリッパを履くように促した


長い廊下を時折振り返っては笑顔で先導する一平さんと緊張しながら歩くと

厳つい男性が二名立つ襖の前で足が止まった





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