溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
【書籍化御礼】番傘越しの世界

 五月。
 新入社員のスーツ姿がまだまだ初々しい電車の中は、不快指数が高い。
 前日に父親に呼び出され、実家から通勤するのに電車を選んだのは客先に立ち寄るため。


 電車通勤なんて、性に合わない。
 やっぱり迎えの車で悠々と出勤するのが一番だと身を以て感じる。

 それに、ハッキリ言って、〝羨望の眼差し〟を向けられるのはあまりいい気分はしない。
 いい加減うんざりしているし、家柄や容姿を恨んだことだってある。
 普通にしていたいのに言動に尾鰭がついて回り、いつからか悪評まで出回って、よからぬ噂をされるようになった。

 ……そして今日も、あの女は同じ車両に乗り合わせ、途中駅から乗ってきた俺を見て驚いている。

 半年ほど前に気づいた、独特な視線。
 まるでこちらを観察するようにじっくりと見つめてきて、目を合わせようとすると上手く逸らして交わることはない。

 探偵か? いや、まさかな。あんなわかりやすい探偵はいないだろう。

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