生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
1章

1.生贄姫は今日も旦那さまを愛でる。

 アルカナ王国首都ロゼリアの中心部からやや南東に位置する森の中に一際大きな古城が存在する。
 その城の主人にして、この国の第3王子であるテオドール・アルテミス・アルカナの朝は、早い。
 夜明け前には城の誰より早く起き、剣術、魔術の鍛錬を済ませ、魔物が巣食う森やその周辺に異常がないか見回りを行う。
 結界が壊れていれば魔力を以て補修し、人に仇なす魔物が境界線を越えて現れれば、剣で以て討伐し、送り込まれた刺客を見つければ屋敷に踏み込む前に迎え撃つ。
 それら全てを一人でこなすのが、彼の日課であった。
 テオドールがいつもの日課をこなし、朝日が完全に昇りきった頃、突如空気がピリリと変わったのを感じとる。

 ナニモノかが領域に侵入したのだ。

 テオドールは意識を集中し、邪気の流れる方向へ走り出す。

『ァギァー』

 耳を劈く咆哮と木々が薙ぎ倒される音に続き、激しく地面が揺れる。揺れる地面を危なげなく足を進め、目標を確認。
 暴れているのは大型のベアだ。対象は1体。鋭い爪で大きく振りかぶり次々と木々を薙ぎ倒している。状況を把握したテオドールは容赦なく討伐対象に剣を振り翳す。
 だが、その剣がベアに届く事はなかった。テオドールが剣をベアに突き立てるより早く、ベアは大きな音と共にその巨体を地面に横たわらせていた。
 テオドールはため息をつきながら剣を納め、ベアに近づく。
 ベアの脳天と心臓は何かで貫かれ、倒れた巨体の周りには血溜まりができており、確認するまでもなく、ベアは事切れていた。
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