生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

45.生贄姫は賭けを受ける。

 食後、応接室のソファーに腰掛けたリーリエは目を輝かせながらテオドールの手元に魅入る。

「はぁ、眼福でございますね。旦那さまがお手ずから私のためのにカフェオレを淹れてくださるところが見られるなんて」

 ルイスの言った通り、先程までのリーリエの塩対応は秒で改善され、翡翠色の瞳は幸せそうにテオドールを愛でている。

「あ、テオ。俺も甘いやつ。ラテアートやって。麒麟とか獅子王とかその辺描いてくれればいいから」

 リーリエと向かい合って座るルイスはにやにやと笑いながらテオドールの方を見て、揶揄うように無理難題を吹っかけてくる。

「できるかっ! ていうか、ルイスに淹れるなんて一言も言ってない」

「そうですよ、ルゥ。旦那さまは私に、淹れてくださっているのですよ。邪魔しないでいただけます? あ、私先ほどまで頭脳戦を繰り広げていたため糖分を欲してますので蜂蜜入り、ミルク多めでお願いいたします」

 そう言ってちゃっかりリクエストするリーリエをちらっと見やったテオドールは無言のままリクエストに応じる。

『ああ、文句を言いつつルゥのためにブラックコーヒーまで用意しているテオ様優しい。指なっがい。動作キレイ。尊い。推せる』

 テオドールにキラキラした視線を送りつつ、ああ、何でこの世界動画撮影できないんだろうとリーリエは本気で打ちひしがれる。
 何度も見られる光景ではないので、この瞬間を目に焼き付けて堪能するしかない。
 テオドールから差し出されたカフェオレを満面の笑みで受け取ったリーリエは、

「はぁ、尊い。旦那さまに課金したい。このカフェオレ飲まずに一生取って置くことはできないのでしょうか?」

 割と真剣なトーンでそう口にする。

「いや、今すぐ飲めよ。課金って何する気だ?」

「旦那さまの存在がもう、尊すぎて感謝の示し方が課金以外見当たらないって感じなのです。この間投資した鉱山一つお譲りしましょうか?」

「カフェオレ一杯で? リーリエの中の金銭感覚一体どうなってるんだ」

 リーリエのとんでもない発言も笑って流すテオドールと、

「この一杯にはそれほどの価値がある、という事なのですよ。ああ、飲むのが勿体ない」

 そんなテオドールのことを幸せそうに見つめるリーリエ。
 そんな二人を見ながら、ルイスは差し出されたコーヒーを口にする。
 互いを想っているベクトルが、真逆を向いているなんて。
 この二人の光景を見て、一体誰が思うだろう?
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