生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

46.生贄姫は語り出す。

「さて、夜も更けてきたし、リリの機嫌も直ったところで、そろそろ報告書に暗号混ぜてまで屋敷に呼び出した理由を聞いてもいいかな?」

 ルイスの問いかけにテオドールはリーリエに視線を寄越す。

「旦那さまは忠実に暗号化してくださると踏んでいましたので、少々報告書に手を加えさせていただきました。私が直接的な手段で王太子殿下を呼び出すわけにはいきませんので」

 ルイスが屋敷にいた理由を説明し、テオドールに詫びる。

「この屋敷が一番安全に話せますからね。念のため盗聴防止魔法もかけていますし」

 リーリエはことりとブレスレット型の自作の魔道具をテーブルに置く。
 これでこの二人以外にここから先の会話が漏れる心配はない。

「やばい案件?」

「そうでなければ、わざわざリスクを冒してまであなたと接触しませんよ」

 今更何を言っているんだとリーリエは淡々と話す。
 視線をルイスから隣に座るテオドールに向けたリーリエは、

「"して欲しいことはあるか?" とお聞き頂いた件、まだ有効ですか?」

 と確認を取る。

「ああ」

 テオドールは短く答える。
 それを聞いてリーリエは手を差し出す。

「手を握っていて頂いても良いですか? 今から気乗りしない話をするので、私が逃げてしまわないように」

 テオドールは差し出された手に視線を落とす。その指先は僅かに震えていた。
 テオドールはそこに自身の手を重ね、指を一本ずつ絡める。

「話したくないことは、言わなくていい」

「甘やかしますね、旦那さま。でも、大丈夫なのですよ。だってあなたは、私が何を話したとしても、きっと最後まで聞いてくれるでしょう?」

 テオドールは黙ったまま、指先に少し力を加えることで肯定する。
 この手があるなら、きっとまだ大丈夫。
 リーリエは深呼吸をして、ルイスの方を向く。

「王太子殿下にお願い申し上げます。王太子殿下の目とフクロウをお借りしたいのです。できれば大型のものを」

「理由は?」

 リーリエは厳重に結界を施してある魔法陣を手が触れないようにしてルイスの前に置く。

「これは本来、カナンの王城の禁術書庫に厳重に保管されてあるべきものです。まぁ今はそこにもないのですけれど」

「禁術?」

「これは、魔力とともに人の命を代償に発動するものだから」

 リーリエはゲームでのイベントクエストを思い出す。
 もう既にゲームとはストーリーも時系列も違っているし。
 ゲーム時系列で戦争が起きている時期を過ぎても謎を解くための主人公が転移してきていない。
 だからと言ってこれからもそのイベントが起こらない保証はどこにもないのだ。
 確証のない出来事に立ち向かうのは何が起こるのか予想できず、正直怖い。
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