君への最後の恋文はこの雨が上がるのを待っている

沈みゆく秘色




もっと惰眠を貪る予定が、あまりの蒸し暑さに起こされた。

汗ばんだTシャツの胸元を引っ張って、扇ぐように揺らしながら階段を降りていくと「あら、いたの?」とリビングにいたお母さんに驚かれる。


「いたのって、ひどくない? 娘が寝てることに気付いてなかったの?」

「だってあんまり静かだし、あんた休みっていったら剣道ばっかりで家にいないじゃない」

「顧問が急用が入ったから、部活は休みだって昨日言ったじゃん」

「そうだったっけ?」


とぼけながら、お母さんはテレビを観つつ洗濯物を畳んでいる。すいすいっと畳んでいくその手際の良さに、器用だなあと感心した。

あたしがやると、どうしても左右のバランスが悪くなったり、積むとすぐ崩れたりで怒られる。それで結局手伝わなくなったんだけど。


「智花は?」

「お友だちと勉強会だって。さっき出かけてったわよ」

「ふーん……」


またあの騒音をまき散らす車に送られ帰ってくるんだろうか。

お母さんが知ったら卒倒しそうだな、なんて考えながらキッチンに立つ。


「ねー。あたしの朝ご飯は?」

「ないわよ、そんなの」

「え~っ!?」

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