君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
キミとの時間
そして迎えた5月8日…

わたしは体育館へ向かって歩いていた。

そして…

なぜかわたしのとなりには璃子。

さかのぼること、数時間前…

「あたしもバスケ部のマネージャー

やることになったから」

そう宣言した。

わたしと聖奈ちゃんは

2人して驚いた。

「な、なんで!?」

「さすがにびっくり!

でも璃子らしいよね、すごく」

驚きすぎているわたしとは

対照的に聖奈ちゃんは納得

…という感じで。

まさか、まだ時田先輩の事

気にしてるの?

あれから特に変わった事はないし、

時田先輩とも会ってない。

考えすぎだと思うけど…

「あー、言ってなかったけど。

隣のクラスの日向大輝(ひなた だいき)に

頼まれたんだよね、マネージャーに

欠員が出るからって」

日向大輝くん?

初めて聞く名前…

いつの間に隣のクラスの男の子とも

仲良くなってたの?

相変わらず、璃子はすごい。

「日向って桐生の幼馴染じゃん!

いつの間に友達になったの?」

えっ?

桐生くんの幼馴染?

「そう、桐生の幼馴染。

隣のクラスに元々友達がいて

ちょくちょく顔出してたら、

声かけられて。

それからかな、仲良くなったの」

へぇー、そうだったんだ。

黙って頷いていると、

璃子が親指を立て、笑顔で言った。

「流羽!よろしくねー!」

…というわけで璃子と一緒に

やってきたのだ。

そして体育館の中に1歩入ると

たくさんの大きな男の子達が

目に飛び込んできた!

たくさんの男の子…

ちょっと怖いかも。

当たったら、わたしなんて

吹き飛ばされそうだな…

気を付けよ。

1人、小さく拳を握るわたしは

コートに立つ、桐生くんに

目を向けた。

わたし、頑張るね!と

心の中でつぶやいた。

そのとき…

シュート練習をしていた

桐生くんが、急にこちらを

振り返って…

少し口元を緩めて、

口をパクパクさせている。

ん??

首を傾げながら、唇の動きを

必死に読む。

『頑張れ』

頑張れ??

桐生くんに、わたしは頷いた。

すると、桐生くんも頷いたから

頑張れで合ってたんだなと、

ホッとして…

心の中が温かくなるのを

感じた。

そんな些細なやりとりが、

わたしに勇気をくれること…

桐生くんは知らない。

それでいい。

自分の気持ちを、

伝えることはないのだから…

そして、気持ちを切り替えて

コート外側に立つ、

時田先輩に歩み寄った。

「時田先輩、お疲れ様です!

今日からお世話になります!」

わたしは頭を下げて挨拶した。

璃子は…というと、

びっくりするくらい

顔を引きつらせて挨拶してる!

「時田先輩、よろしくお願いします」

時田先輩は一瞬だけ視線をよこし、

すぐに逸らしてしまった。

聞こえてないわけないよね…

無視されたんだ…

でも、ここでへこたれても

なんにもならないよね!

その時、大きな笛の音がして

バスケ部の皆さんが

わたし達を取り囲むように立つ。

うわっ!なんかすごい圧力!

怖じ気づいてる場合じゃない!!

わたしは大きな声で挨拶をした。

「今日からお世話になります、

1年の春瀬流羽です!

よろしくお願いします!」

「同じく1年の香月璃子です。

よろしくお願いします」

わたし達の挨拶が終わると、

一斉に部員の皆さんが

声を揃えて挨拶してくれた。

「よろしくお願いします!!」

そして、1人の男の人が

その輪から離れ、

こっちに歩いてきた。

「俺は部長の相模。

それから、今日はいないけど

顧問は一条先生だから」

えっ?

一条先生、バスケ部の顧問なの?

インテリな感じなのに…意外。

ぺこりと頭を下げた、わたしと璃子。

そして、相模部長の掛け声で

練習は再開された。

その後わたしと璃子も

叩き込んできた仕事内容をこなした。

練習で使う用具の準備や片付け、

練習の合間にすぐ飲めるように、

コートの外側にスクイズボトルの設置、

脱ぎ散らかされたジャージを

名前ごとに畳んだり。

休憩時間にタオルを配って歩いたり。

やることが多すぎてヘトヘトだ。

でも、すごくやりがいを感じた。

一生懸命頑張る人のために

力を尽くしたり、応援したり。

自分よりも相手のことを考えて動く。

それって、すごく難しい。

わたしはずっと自分のことで

頭がいっぱいで、気付かなかった。

誰かが自分を支えてくれている

ということ。

それがすごく特別だってこと。

わたしは今日やっと…

それに気づけた気がする。

これも、桐生くんが

バスケ部に誘ってくれたから…

コートの中で、必死に

走る桐生くん。

その姿は、本当にキラキラ輝き、

眩しい…

流れるようにコートを駆け、

シュートを放った瞬間…

わたしは、その背中に

輝く翼を見た。

時が止まったかのように

わたしは、その姿に

目を奪われて、立ち尽くす。

あの日と同じように、

わたしの心臓は、

ドキドキと音を立てて、

心を掴んで離さない。

そして、わたしは

何度でも桐生くんに

恋をする…

キミの名前と同じ、

【翼】に…
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